【上昇気流】(2023年12月12日)

小津安二郎記念館

日本映画の巨匠、小津安二郎は60年前のきょう、還暦の誕生日に亡くなった。4月には横浜市の神奈川近代文学館で生誕120年没後60年を記念する展覧会が開かれた。

その関連イベントとして『小津安二郎』(新潮社)を上梓(じょうし)した平山周吉さんと女優、岡田茉莉子さんのトークイベントがあった。すぐに入場者がいっぱいになり聞くことができなかったのは残念だった。岡田さんは「秋日和」(昭和35年)で佐々木百合子という名の現代女性を好演している。

完成後の食事会で岡田さんが野球好きの小津に「監督から見て4番バッターはどなたですか」と聞くと「杉村春子」という答えが即座に返ってきた。「それじゃあ、私は?」と聞くと「今は、1番だね」と答えたという。生誕100年シンポジウムで明かされた逸話だ。

小津組のクリーンナップを考えた場合、杉村が4番というのは、誰もが納得するところだろう。そうなると3番は原節子、5番は笠智衆か。それでは2番は誰か。

小津作品への出演数からも、三宅邦子を挙げるべきだろう。原が主演の「麦秋」(昭和26年)での主人公の兄嫁役など平均的な日本の主婦を演じ、家族をテーマにした戦後の小津映画にリアリティーと安定感を与えている。派手さはないが、3番打者にきっちりと繋(つな)げる「不動の2番打者」だった。

近頃の映画やドラマにリアリティーが不足していると感じるのは、三宅のような2番打者がいないためではないか。

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