先日、取材で会った韓国の20代男性に名前の漢字表記を尋ねたら、一瞬戸惑った表情をした後、常時所持している住民登録証を取り出した。そこには名前がハングル表記と漢字表記で併記されていたのだ。「自分の名前の漢字表記すら覚えていないんですよ」と、彼はバツが悪そうに言ったが、若者に限らず中高年でも「そういえばこの年になっても自分の名前を漢字で書くことは滅多になくなった」(40代女性)というのが現状のようだ。
確かに韓国での日常生活で、自分の名前を漢字で書かなければならない場面は極めて少ないかもしれない。ただ、役所に出生届や死亡届を出す際は、なぜか必ず漢字表記を求められる。闘病中だった80代の老母が亡くなり、死亡届を出すため役所の窓口に行った60代の長男が、母親の漢字表記を求められて困り、慌てて一緒に来ていた妹に書かせたという話を聞いたことがある。自分の名前すら漢字で書けないのだから無理もない。
韓国で漢字使用が激減してからもう30年くらい経過するが、それでも身分証などに漢字表記が併記されるのは、ハングルとは違って同じ読み方でも意味の違いが一目瞭然な漢字が必要と考えられたからという話もある。「名は体を表す」と言うだけに、表音文字のハングル表記では「こういう人になってほしい」と思って名前を付けた親の願いがかすんでしまう。漢字使用が減っても、名前だけは漢字で書けた方がいいと思うのだが…。(U)