【上昇気流】(2023年12月1日)

記者会見するキッシンジャー氏=1976年撮影、撮影場所不明(AFP時事)

米大統領補佐官や国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャー氏が亡くなった。米中和解やベトナム戦争の終結に貢献し、「現実主義外交の神様」などとも言われる。

ホワイトハウスや政府関係の役職を離れても、米外交の重鎮としてその発言や行動が注目されてきた。米中関係が厳しくなる中、今年7月には訪中し習近平国家主席と会談している。

キッシンジャー氏が米外交に大きな足跡を残したことは確かだ。しかし、本当の評価が定まるのはこれからではないか。その現実主義外交は、しばしば人道や人権を重んじる人々から批判されてきたが、それ以上に戦略的に妥当なものだったのか、改めて検証すべきだろう。

ソ連と対抗するために米中和解を実現した。しかしその後、中国が民主化されるという幻想の下、対中関与政策が進められ、異形の大国の台頭を招いた。共に対ソ・チャイナカード戦略を推進したマイケル・ピルズベリー氏は、後にその誤りを率直に認めている。しかし、キッシンジャー氏は最後まで対中融和外交を主張した。

その現実主義外交はバランス・オブ・パワー(力の均衡)を基本としたもので、外交史家としてナポレオン戦争後のウィーン体制を研究したことが基礎にあると言われる。

しかし今の戦争や紛争は、力の均衡理論だけでは予測やコントロールができない複雑で混沌(こんとん)とした状況を呈している。キッシンジャー氏の死は、そんな時代を象徴する出来事のように見える。

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