
「中小企業」は中小規模の事業者の総称だが、今日の産業社会、経済構造の中で極めて多様な要素を持っている。政府は中小企業に対し、賃上げを行えば減税措置を手厚くするという支援策を打ち出している。
賃上げは確かに企業の稼ぐ力を高めるための“弾み”となるかもしれない。だが企業経営は、生産性が向上した結果、賃金を上げるというのが本筋だ。現在の物価高への対応は欠かせないが、本来の経営の在り方を見失ってはなるまい。
2023年版「中小企業白書」は業種や経営内容に応じ、地元の金融機関、商工会による応病与薬的な「伴走支援」の必要を説いている。中小企業への支援もきめ細やかさが大事だ。
例えばこの間、東京の下町で背中合わせに立地する2件の回転寿司(ずし)屋が、一貫5円、10円の値引き競争をしているのを見た。都会では中小規模の飲食業が激しく競り合って命脈を保っているのであり、勝ち抜く方策こそ必要だ。
他方、地方では地場産業の高度化を目指す中小企業が増えてきた。地域経済に密着した生産、雇用などの担い手としての役割が大いに期待される。こうした地方のベンチャー企業の持つ技術は、先端的なものとして発展する可能性があり、効果的な支援が求められる。
中小企業を本当に活(い)かすべき道を今こそ考える時だ。中小企業への支援が、経済の発展や国民生活の向上に必要だと広く認識されることも重要で、賃上げ支援自体を目的化してはならない。