トップコラム【上昇気流】(2023年11月20日)

【上昇気流】(2023年11月20日)

ニホンウナギ

近畿大学水産研究所(和歌山県)はニホンウナギを卵から育て、そのウナギから作製した受精卵を孵化(ふか)させる完全養殖に成功したと発表した。ニホンウナギの完全養殖は2010年、国の研究機関で成功しているが、市場流通には至っていない。

同研究所の田中秀樹教授は「商業的に成り立つのはまだ先だが、ニホンウナギの持続可能な養殖に向け研究を進めたい」と。同大はクロマグロの完全養殖も手掛けた。

日本の大学は明治初期、欧米の産学界に倣い主に製鉄、合成繊維などの分野の技術を育てていったため、水産資源に関わる研究はやや後発。今、その技術研究を行う大学は30ほどあるが、難事業に取り組む近畿大の姿勢は立派だ。

20年ほど前、公害で水質汚染に悩まされる愛知県の三河湾を取材し、矢作川の表流水を水源としたウナギ養殖の活気に乏しい姿を目にしたことがある。その後、水質もかなり蘇(よみがえ)り活況を呈しているが、当時、養殖自体の重要性がまだそれほど認識されていなかった。

しかし今日、食料問題の解決が世界的課題となり、水産養殖への期待は高まるばかり。自然環境下での繁殖能力は弱まる傾向にあり、人為的に選択して継代を続ける、いわゆる「人為選抜」による養殖技術の確立が急務だ。

養殖の技術開発を行う大学・研究機関を増やすとともに、人材と費用を投入した産学共同研究も求められる。遺伝子の編集技術の安全性については慎重な議論、規制も必要となる。

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