【上昇気流】(2023年11月18日)

「日本人は細かな差異に敏感で、イントネーション(声の抑揚)や語尾などに過剰なメッセージを読み取りがち」と批評家が言う。抑揚や語尾は発語の本体ではないのだから、中身にもっと注目すべきだとの趣旨だ。

それに対して、解剖学者は「それはこの国が過密なのが原因」とコメントする。近くに人が居過ぎるから、どうしても他人の反応が気になる。周囲が気になれば、勝手なことはできない。解剖学者の養老孟司、脳科学者の茂木健一郎、批評家の東浩紀各氏の鼎談(ていだん)『日本の歪み』(講談社現代新書/近刊)という本の中での発言だ。

例えば「みんな」という言葉を日本人はしょっちゅう使う。解剖学者に言わせると「みんな主義」は息苦しい。高密度だから「みんな」は近い距離にいつもいる。だから日本は自殺も多い。

もちろん、息苦しいほどの距離感も悪いことばかりではない。近い距離感がなければ表現できない日本文化は多い。『日本の歪み』というと、日本だけに歪(ゆが)みがあると考える人がいるかもしれないが、歪みのない国など世界中どこを探してもない。

解剖学者は「言葉で規定できないものが日本には多い」とも指摘する。言葉以外のものがコミュニケーションで大きな比重を占めるとは、つまりは「言葉が軽い」ということだ。

そんな国で生きてきた者としては、この本を読んで身につまされる。この鼎談本は、われわれが漠然と思っていたことを、もう一段深めた形で示してくれる。

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