支持率が続落する岸田政権がレームダック化してきた。直近のNHK世論調査では内閣支持率は前月比7ポイント減の29%と、一昨年秋の政権発足以降、初めて30%を割った。一方で、不支持率は8ポイント増の52%。この2年間で政権と国民の距離が最も乖離(かいり)した時期を迎えていることになる。
国民主権を代表するはずの首相が国を背負うことができず、政治の信頼を強調しながら自ら国民に不信の種を蒔(ま)く、これを続けていては支持率続落こそ自明の理というものだ。
公約に掲げていないLGBT理解増進法案を米国バイデン政権からの意向で、今年の春に急遽(きゅうきょ)、首相自らの指示で進めた。そこで、手続きが議員立法であるとの盾を取り、議論も尽くさず急いで法案化。その際、自らの説明は何度も避けて通った。一般女性の安全と人権を広範に脅かすとの懸念は、後に同法が複数の重要な司法判断に引用されることを通じて日に日に高まっている。
10万人超の日本人が滞在する中国では、2014年の反スパイ法制定(23年改正)以降、同法容疑で17人が拘束された。明確な事由も知らされないまま実刑判決者も出る状況で、当時の林芳正外相を派遣するも、なしのつぶてだった。日中政府間での有効な疎通もなく、多くの現地日本人は安心して暮らせない状況にあるのではないか。しかも、このような事態を受けた在外邦人保護についての建設的な議論すら聞かれない。
首相が握る政権幹部の 「人事権」については、就任当初から国民に向けてあからさまに述べていた。ところが、9月の改造内閣からは山田太郎文部科学政務官、柿沢未途法務副大臣、神田憲次財務副大臣と辞任ドミノが発生している。皮肉なことに山田氏がパパ活疑惑、柿沢氏が公職選挙法違反疑惑、神田氏が税金滞納という具合に、政務三役の人事は「適材適所」でと首相が強調していたのとは裏腹な実態が露呈された。首相の任命責任とともに、政治の信頼を失墜させた事件として令和の政治史に記録されるものとなろう。
神田氏辞任と軌を一にして今月、岸田首相が自ら直接、財務政策の幹部から梯子(はしご)を外され、政治不信に拍車を加える一幕もあった。首相は物価高への経済対策として、昨年と一昨年の税収増加分を、所得減税として国民に還元するとの閣議決定を11月2日に発表した。ところが1週間もたたぬ間に、自民党の宮沢洋一税調会長が「還元ではない。国債発行だ」と否定。加えて閣内の鈴木俊一財務相までもが「還元する原資はない」と否定したのだ。
臨時国会冒頭に「経済」を連呼した岸田首相が、党の税調会長と財務相との間にこれほどの確執を暴露した政治不信劇場を今後収拾する方法があるのだろうか。それどころか、売春防止法違反容疑すら付きまとう財務省出身の木原誠二氏を、官房副長官退任後も自民党幹事長代理兼政調会長特別補佐としていまだ頼りにしている。こうして、首相自身が政治不信の種を蒔き続けている限り、国民の信頼を取り戻すことは困難であろう。(駿馬)