
カトリック教会大司教や上智大学学長を務めたヨゼフ・ピタウ氏は、こんな言葉を遺(のこ)している。「教育は、学校からではなく、家庭から始まるのだということも忘れてはなりません。世界観、行動基準は、家庭で学ばずにどこで学べるというのでしょう」(2009年11月21日付読売新聞「時代の証言者」)。
フランスの人類学者エマニュエル・トッド氏によれば、個人を尊ぶアングロサクソン社会は1世代だけの家族を重視するが、ドイツや日本は3世代を家族と捉えるので消費よりも貯蓄や教育を好む。日本の成長は家庭が理性を育み、その理性を社会が共有するという文化の力で回っている(『世界の多様性 家族構造と近代性』藤原書店)。
11月の第3日曜日は「家族の日」である。今年は19日で、前後各1週間を「家族の週間」としているので今週初めから始まっている。その最中なのでピタウ氏やトッド氏が語る「家族の価値」を思い浮かべた。
1955(昭和30)年に鹿児島県の鶴田町で始まった「家庭の日」運動がその起源だ。戦後から10年経(た)ち、薄れつつある家族の絆を大切にしたい、休みの取れない農業者のために「農休日」を設けたい。そんな思いから取り組まれ、全国の自治体に広がった。下からの盛り上がりで政府を動かし、2006年に「家族の日」が制定された。
昨今は家族よりも個人が尊ばれるが、その個人とて家族なしでは生まれも育ちもしない。家族を再確認する週間としたい。