老後の近居暮らし

1人暮らしの高齢者や老々介護の夫婦にとって、最後頼れるところは、やはり子や孫である。

最近、2世帯住宅に住んでいた姉夫婦が、駅から徒歩10分の住宅街にセカンドハウスを持った。娘夫婦の近居に住むことで、介護や入院といった老後のリスクに備えたいということのようだ。娘夫婦からすれば、気軽に孫の面倒を見てもらえるからありがたいのだ。

ただ、同居となると踏み切れない人が多いようだ。

近所の知り合いに、娘夫婦と同居を始めた70代後半の女性がいる。お客様相手のサービス業を営む娘のヘルプコールがきっかけだが、同居してみると毎日の食事の献立や孫の教育を巡って、さまざまに葛藤が多いようだ。一番は「居場所がないのがつらい」と話していた。

日本人の食卓の変化を長年調査してきた岩村暢子さんは、子や孫と同居する老親が1人で孤食する事例が少なくないと、著書『ぼっちな食卓』で書いている。

つまり、親子、嫁姑(しゅうとめ)の微妙な人間関係が居心地の悪さを生む。そう考えると同居より近居、あるいは1人暮らしが気楽でいいという話になる。老後も自立した生活を送れるように健康寿命を延ばしたいと、ジムや健康サロンに通う高齢者が増えるのもこうした理由であろう。

某テレビ局の番組に『ポツンと一軒家』というお家訪問番組がある。90歳近い老人が山奥で自給自足の1人暮らしをする姿を見ていると、老後の不安や心配事がちっぽけなものに思えてくる。自然と向き合い、地域とつながり、子や孫とのつながりがあれば1人暮らしであっても孤独ではない。

これから介護・看護分野の人手不足が深刻化する。団塊世代が介護年齢を迎える2040年を考えると、公助より自助共助がますます重要になってくる。その意味で老後の近居暮らしは自助共助に適(かな)っている。

まだ遠い話だが、初孫を持つ身となった今、10年後の居場所が気に掛かる。

(光)

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