【心をつむぐ】大鏡餅に難癖を付ける神事

「奇祭の宝庫」と言われる石川県能登半島で、このほど、それを示すような神事が執り行われた。毎年11月7日、半島の先端に位置する能登町鵜川地区に伝わる「いどり祭り」だ。

「いどる」とは「難癖を付ける」の意味で、地元の菅原神社の拝殿には、直径1・2㍍の大鏡餅2枚に丸型小餅50~60個、とうし餅16枚が並んだ。これらの餅はすべて当番に当たった集落の男たちのみで作り、神前に供した。同地区の六つの町内が交代で当番となっている。

午後8時すぎ、神事が始まった。明年度に大鏡餅を作る男衆を陪賓(ばいひん)としてもてなすが、彼らが曲者(くせもの)で、目の前の餅にさまざまな難癖を付ける。「今年の餅は肌の色が悪い、触ると凸凹しとる。端がひび割れとる」など、言いたい放題だ。

これに対して、当番も負けじと弁明する。「とんでもない。あんたの目が悪いんじゃないか。しっかり触ってみんかいね。上手に出来とる」などなど。やりとりは容易に収まらない。この「いどり」と「弁明」がとても珍妙で、ユーモラスこの上なく、見る人たちの笑いを誘う。結局、この“バトル”が容易に収まらないので、頃合いを見て神主が仲裁に入り、両者を収める。

当屋制による古風な新嘗祭(にいなめさい)の一つとされ、県の無形民俗文化財に指定されている。来年の豊作を願う神事とのことで、一説では500年余り続いているという。コロナ禍で、4年ぶりの開催となった。

(仁)

spot_img