
来年のNHK大河ドラマは、平安時代の『源氏物語』の作者、紫式部の生涯を描いた「光る君へ」。平安時代を舞台にした女性の主人公の物語は珍しい。そのこともあり、背景となる平安時代の人々の生活風俗や貴族社会などについての本が出ている。
「平安」と名付けられているように、次の武家が主役の鎌倉時代と違って表面的には平和な時代だった。軍事力を持たない王朝とも表現されることがあるが、代わりに治安を担当したのが法律外の存在である検非違使(けびいし)だった。
平和といっても、盗賊が横行したことは、芥川龍之介の「羅生門」や「偸盗(ちゅうとう)」など『今昔物語』やその他を素材とした短編小説からもうかがえる。今昔物語には、庶民の生活苦や没落貴族の寂れた生活などが描かれている。
華やかな社会で生きる貴族と庶民の間にはかなりの格差があったと言える。王朝文学の源氏物語は貴族社会の人間模様を中心とした物語である。こうしたことが、後に実力主義の武家の台頭を招いたことは想像に難くない。
源氏物語は古文で書かれた長編なので、知名度の割に読むのが大変で、実際に通読した人はそれほどいないかもしれない。そのために読みやすい現代語訳が数多く出ている。
歌人の与謝野晶子や作家の谷崎潤一郎、その他の近現代作家によるものがある。訳文にもそれぞれの訳者の特色が表れている。その点、現代語訳で読んでから原文というコースが、読破するには無難である。