【上昇気流】(2023年11月8日)

伊勢神宮(Wikipediaより)

外国人観光客が新型コロナウイルス拡大前の実績を上回る勢いで増加してきている。円安による割安感も一因か。観光地に活気が戻る一方、マナー違反の「観光公害」もある。晩秋の旅路を見守りたい。

辞典によれば、観光の語源は中国の『易経』の「国の光を観(み)る」で、単に「観に行く」ではない。江戸期の庶民の間でブームとなった「お伊勢参り」は当時としては国外旅行で、伊勢神宮の光(ありがたさ)に浴するためだった。東海道などが整備されたことも後押しした。

近代の団体旅行の創始者は英国のトマス・クック(1808~92年)である。少年時代に貧苦を重ね、後にバプテスト教会の宣教師となって禁酒運動に携わった。労働者のために飲酒に代わる健全な娯楽として考えたのが安い運賃で行ける団体旅行で、41年に大ヒットさせた。

馬車が鉄道、帆船が汽船に変わった交通革命時代のことである。クックは世界一周旅行の途中に維新直後の日本を訪れ(72年)、日本人は礼儀正しく清潔だと好印象を持ち、「日本は大変美しい国だ」と述べている(週刊朝日百科『世界の歴史114 旅行社と通信社』)。

米紙ニューヨーク・タイムズは1月に「今年行くべき世界52カ所」の2番目に岩手県盛岡市を挙げ話題になった。素朴で古風な日本を味わえるからで、今も「美しい日本」が観光の目玉となる。

「古き良き日本」に国の光があるからだろう。それを嫌う人もいるが、それでは観光客が逃げる。

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