
兵庫県の豊岡市を十数年ぶりに訪ねた。JR豊岡駅前からバスで城下町の出石へ向かった。円山川に沿って走るバスから田園の風景を眺めていると、シラサギとは別に河原で餌を漁(あさ)る、羽の先端の黒い鳥を見つけた。コウノトリだ。
国の特別天然記念物で、絶滅危惧種に指定されているコウノトリは1971年、日本の空からいったん消えてしまった。しかし最後の生息地豊岡で、野生復帰事業が始まった。2005年から放鳥を続け、今では野外での生息数は400羽近くにまで増えている。
コウノトリは羽を広げると2㍍にもなる大きな鳥だ。野生復帰の拠点、豊岡市の兵庫県立コウノトリの郷公園で飛ぶ姿を見たことがあるが、実に雄大だった。行動半径も広く、今や全国各地で目撃されている。
同じような繁殖と野生復帰事業は千葉県野田市でも進められている。鍵の一つは、農薬の使用などで激減した餌のドジョウや小動物が増えることで、環境に優しい農業の広がりの指標となっている▼中央アジアのウズベキスタンの古都ブハラでもコウノトリは幸せを運ぶ鳥として愛されてきた。刃の部分をコウノトリの嘴(くちばし)に象(かたど)ったハサミが土産物として人気だ。
そんな鳥を見たのだから、何かいいことがあるような気もする。だが考えてみれば、気流子が目にしたコウノトリは、世界でも極東地域に2000羽ほどしかいなくなった内の2羽。それを野生の姿で見られたこと自体が幸運というべきだろう。