10月25日、司法界でショッキングな判決が下された。トランスジェンダーのうち、自身を身体的かつ社会的にもう一方の性別に適合させたい意志を持つ 「性同一性障害」の人が、戸籍上の性別変更のためには生殖機能をなくす手術を要するとの法律要件について、最高裁判所大法廷 (裁判長・戸倉三郎長官)が、違憲と判断した。前回の合憲判決からわずか4年で覆されたのだ。
判決文には、変化した今日の社会状況として、今年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)の可決が明記されている。同法は単に理念法だからと、その影響力を小さく見せようとした人々の欺瞞性、また楽観論であった人々の警戒感の弱さ、のいずれもが実証された形だ。
立法と司法にまたがり、こうして性の多様性の考え方を前のめりに進めると、現実的かつ広範囲に「一般女性の安全と人権」を脅かしていく。具体的には女性トイレや女湯、授乳室など、一般女性のスペースに、恣意(しい)的に女性を自認する男性の侵入を正当化する根拠になるからだ。治安の良さ、秩序、また多様性への寛容等、日本社会が元来伝統的に備える美徳をむしろ自ら放棄するプロセスとの危機感を抱かせる。究極的には日本の戸籍制度や、男女という生来の人間の尊厳にも関わる問題だ。
一方、これに先立つ10月13日には、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の宗教法人格の解散命令が文部科学省から東京地裁に請求された。昨年7月8日にテロ犯が安倍晋三元首相を暗殺すると、そのテロの蛮行自体を問題とするより、むしろ、テロ犯が恨んだ教団を問題とする風潮が以降、魔女狩りのごとくマスコミや野党によって煽られた。岸田政権はこれに押し切られるように、テロ犯が教団を貶(おとし)めようとした目的をこの解散命令によって果たしたのだ。
所管の文化庁を諮問する宗教法人審議会では1年に及ぶ非公開討論のなかで異論も出ていたようだ。だが岸田政権として 「(教団に何もしなければ)内閣が飛んでしまう」 (産経新聞)などと、それらは政治的思惑で抑え込まれたと報道されている。年内に解散総選挙があれば、また10月20日に開会した臨時国会で野党からの追及があれば、教団に厳しい態度を示していないと政権に不利との思惑も報道されている。そのような政治的思惑に振り回される形で、旧統一教会の一般信徒らは信教の自由という基本的人権が生活のなかで脅かされることとなった。
その臨時国会での議場で岸田首相がしばしば言及することばに「人間の尊厳」がある。しかしながら、そのような高潔な価値観を謳(うた)っているのとは裏腹に、実際には性的少数者への配慮の一方で、多数の一般女性の尊厳や、生来の男女という尊厳、また旧統一教会の一般信徒の人としての尊厳には無頓着で、むしろ毀損(きそん)しているのが現実だ。支持率ジリ貧の岸田政権の無能さがもたらす政策にますます警戒しなければならない。(駿馬)