
経済が順調な時代は人々の関心も低かった年金、医療、福祉の社会保障問題。しかし1990年代から医療費の増大が目立つと、以後、経済格差が広がる中で大きな政治社会問題に。今、きちんと対処しないと後世に汚点を残すと指摘する専門家は少なくない。
「新しい資本主義」を掲げ、社会保障制度の問題点について真正面から議論することが待望された岸田文雄政権。だが、今国会の論議でも直接的な言及がないのにはがっかり。経済対策とは無縁と決め付けているのではなかろうか。
物価対策で減税や給付金支給は短期的に好影響が出るかもしれない。しかしグローバルな世界の情勢、経済実勢をじっくり分析し、過つことのない経済かじ取りに取り組むべきだ。
社会保障は誰が、いかに負担していくかという問題。わが国の社会保障制度の歴史を辿(たど)ると、ドイツの社会保険モデルを出発点に、福祉の大半を税で賄う英国方式を次第に取り入れてきた。
従って“継ぎはぎ”的なところがあり、その時々に運用面で小回りは利くが、その基礎や考え方がはっきりしない。社会保障は相互扶助の精神を軸に、世代間で公平、平等感を満たすことが欠かせない。
2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者になって医療費はさらに膨れ上がることが予想される。また、若者を中心に結婚・子育てなどの人生設計に対する手助けがぜひ必要だ。社会保障制度に切り込まないで何の「新しい資本主義」か。