文豪夏目漱石の「坊つちゃん」に登場した蒸気機関車にちなんで名付けられ、愛媛県松山市の市中を週末や休日に走って観光客に人気があった「坊っちゃん列車」が全面運休する。運営していた伊予鉄道は「深刻な運転士不足に対応するため」などと説明している。
同県の中村時広知事は観光への影響を懸念し苦言を呈している。一方、愛媛県ではコロナ禍後の集客のためインバウンド(訪日客)誘致に力を入れる。
日本政策投資銀行四国支店が2020年に公表した調査リポート「新型コロナに関する緊急インバウンドアンケート」で、四国は全国で唯一「自然体験」と「文化体験」がそろって3位以上にランクイン。特に欧米豪富裕層による「歴史」と「自然」への関心は高く、そこに活路を見いだす。
今、オーバーツーリズム(観光公害)が深刻な一部の地域以外では、観光行政に松山と同様の変化を見せるところが少なくない。インバウンドへの取り組みは「観光立国」の本格的な推進に必要なことだろう。
先年訪ねたトルコの古都コンヤ近くの田舎の町で、地元民が「ここらは文化遺産の多い土地だが、顕彰されると保護に尽くさなければならないので、ことさら言い立てたりしない」と冗談交じりに話していた。
そういうフランクな物言いに、かえってその土地に対する誇りと自信が感じられた。日本の歴史、伝統、自然に魅せられやって来る海外の観光客をもてなすべく、学びたい意識である。