かつて安倍晋三政権が取り組んだ安保法制に世論は冷たかった。8割以上の人が疑問を呈した世論調査結果もあった。一部メディアはそれを根拠に同法制に猛反対した。世論調査の真偽を巡って新聞社同士の論争も起こった。
これに対してメディア史が専門の佐藤卓己京都大学教授はこう指摘した。「そもそも世論調査で8割が反対の法案に、反対の論陣をはることはたやすいことだ。問題は、世論調査で2割の支持しかないとき、世論に抗して主張を続ける覚悟があったかどうかである」(毎日新聞2015年10月8日付)。
佐藤氏は「残念ながら、新聞史は新聞が輿論を指導した栄光の歩みでなく、世論に流された敗北の事例で彩られている」とし、「熟考に基づく輿論」を求めた。輿論(よろん)とは公的意見、世論とは大衆感情のことである。
安保法制を巡る世論はその後、大きく変化し、20年に賛成が反対を上回り、昨年11月の内閣府の調査では賛成が6割以上に上った。
世界平和統一家庭連合を巡る世論はどうだろう。各種世論調査によると、教団の解散命令請求に8割以上の人が賛成している。小紙はそんな世論に抗して「信教の自由踏みにじる暴挙」(14日付社説)と論じている。むろん、それが輿論と信じるからである。
今週は新聞週間。その標語は「今を知り 過去を学んで 明日を読む」。果たして新聞人に過去を学ぶ姿勢があるだろうか。自らに問いつつ原稿を熟考し世に送り出したい。