【上昇気流】(2023年10月17日)

歌舞伎座

東京・歌舞伎座の「十月大歌舞伎」昼の部「文七元結物語(ぶんしちもっといものがたり)」に女優の寺島しのぶさんが出演して話題になっている。昨年、市川團十郎さんの長女、市川ぼたんさんが「十二月大歌舞伎」に登場したが、歌舞伎座の舞台に成人女性がメインキャストとして出演するのは極めて稀(まれ)だ。

七代目尾上菊五郎さんの長女として生まれ、女優の道を歩みながらも女性ゆえに歌舞伎座の舞台には立てなかった。歌舞伎座は「近くて遠い」特別な存在だった。その悲願が叶(かな)った。

「文七元結物語」は落語の三遊亭圓朝の人情噺(ばなし)を歌舞伎にしたもので、左官の長兵衛役は父、菊五郎さんの十八番。寺島さんが花道に出てくると「音羽屋!」と大向こうからの掛け声が掛かった。感無量の響きがあるだろう。

今回は映画の山田洋次監督が脚本・演出を手掛け、落語的な味わいや現代的なセンスが随所に感じられる。長兵衛を演じる中村獅童さんは、妻のお兼役の寺島さんとは幼馴染(なじみ)で、息の合った演技で楽しませてくれる。

歌舞伎は出雲阿国が京都の四条河原で始めた「かぶき踊り」が始まりとされている。その女性たちの踊りが社会問題となり、男性だけの野郎歌舞伎になった。ここから男性が女性を演じる女形が生まれ、近いところでも六代目中村歌右衛門、五代目坂東玉三郎さんらの名優がいる。

寺島さんの出演は、舞台に新鮮な風を吹き込むだけでなく、改めて歌舞伎の芸とは何かを考えさせるきっかけにもなるだろう。

spot_img