トップコラム【上昇気流】(2023年10月9日)

【上昇気流】(2023年10月9日)

牛肉

三大栄養素は炭水化物、脂質、たんぱく質。それでは、牛肉から摂(と)ったたんぱく質が人間の栄養素となるのはなぜか。正解は「人間の体内でいったんアミノ酸に分解され、人体に適したたんぱく質が合成されるから」。

これらは中学の理科の授業で教わった。当時世間一般の知識、理解はこの程度でなかったか。また、それで済んでいた。

ところが、この半世紀でたんぱく質の科学的追究は飛躍的に深化した。「DNAの表現型」であることが明らかになり、生命活動にも直接関わり合っていることが分かってきた。

この間、目には直接見えないたんぱく質の結晶化が図られた。その構造を精密に調べ上げる工学的技術が進み、観察できるようにもなった。そこで、病気の原因となるたんぱく質を探り出し、その機能を調節することで生命の維持や病気の回復に役立てる、つまり「創薬」につなげるという発想が生まれたわけだ。

今回のノーベル生理学・医学賞は、その知見の延長線上で新型コロナウイルスのワクチン製造に寄与した米国人学者2人(1人はハンガリーとの二重国籍)に授与されることが決まった。ウイルスの遺伝情報の一部を人体に注射すると、体内でそれに見合うたんぱく質ができて免疫を作るという仕組みを現実化させた。

これには日本人科学者も大きな貢献をした。今、自国だけで医薬品を開発できるのは米英仏独やスイス、日本などわずか。若者に挑戦のし甲斐(がい)のある仕事だ。

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