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【東風西風】古式捕鯨にみる日本の心

ザトウクジラ(Wikipediaより)

古式捕鯨の伝統を受け継いだクジラの追い込み漁が行われている和歌山県南紀の太地(たいじ)町で先日、今季初めての水揚げがあった。

反捕鯨団体の激しい妨害を受けながらも、いさな組合が追い込み漁を続けるのは、生活のためだけでなく、父祖たちから受け継いだ伝統文化への誇りがあるからだ。

太地町の古式捕鯨は、日本遺産にも登録されているが、それが文化であることを最も端的に表しているのが、美しい極彩色(ごくさいしき)に彩色された鯨船である。

太地町の古式捕鯨では、鳳凰(ほうおう)や菊の絵などが描かれた勢子舟(せこぶね)が、クジラを網へ追い立て、最後は「羽指(はざし)」と呼ばれる漁師がクジラの頭に飛び乗って銛(もり)でとどめを刺す。

勢子舟は八丁の櫓(ろ)を備え、速度を出すために舟底には漆が塗られていた。使われていた当時、木造手漕(てこ)ぎ船では世界最速とも言われる。

極彩色に彩色するのは、危険な漁に挑むクジラ漁師たちの縁起を担ぐためとも、息絶えるクジラに最後に美しいものを見せて成仏させるためとも言われる。恐らく両方の意味を込めて、世界で最も美しい漁船が生まれたと思われる。

地球上最大の生物と言われるクジラの死によって、沿岸の人々の多くの命が支えられる。極彩色の鯨船は、そんなクジラの最期を荘厳にするのにふさわしい。クジラの供養塔などとともに、日本人の生き物への心がよく表れているといえる。

(晋)

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