
東京都あきる野市に五日市郷土館がある。先月下旬に訪れると、敷地内に古民家を移築した「旧市倉家住宅」があり、縁側に月見の供え物が用意されていた。生けたススキを真ん中に、団子やカボチャなどがある。
中秋の名月を愛(め)でていた。入るとかまどの設置された土間で、座敷には囲炉裏があって煙が上がっていた。土間の脇に養蚕の様子が展示されていて興味を引いた。昔、盛んだったという。
卵から繭ができるまで、冬を除いて年に3~4回も繰り返されたそうだ。蚕も、誕生から繭を作るまで、せかされたのではあるまいか。郷土館には『五日市物語』(あきる野市)という本があり、昔話を収録している。
「どろ染め」は、絹糸で反物を織っていた夫婦の話だ。仲のいい夫婦だったがある夜、喧嘩(けんか)をして、おっかあは頭に血が上り、織ったばかりの白反物を田んぼに投げ捨ててしまう。翌朝、反物を見に行くと黒く汚れていた。
だが、川の水でさらしてみると、味わいのあるいい黒に染まっていた。おとうも感心し、何回か染めてもっといい色を出し、評判になった。織物は黒八丈と呼ばれ、武士の下着、帯、袴(はかま)、羽織、また婦人用の帯や袖口にも利用されたそうだ。
江戸後期の話だが、昭和初期には化学染料が登場し、作られなくなる。それを現代に復活した人物がいる。市の「あきる野の匠」に認定された糸工房「森」の森博さんだ。ショールや帯や巾着などを制作している。