【上昇気流】(2023年10月4日)

国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長(右)と面会する高市早苗科学技術担当相=9月25日、ウィーン(時事)

過剰に薄めて放出しても科学的には意味がない。このような指摘が専門家から出されている。今週、2回目の海洋放出が始まる、東京電力福島第1原発にたまる処理水についての話だ。

東電は処理水に含まれる放射性物質トリチウムの濃度を、国の安全基準の40分の1(1㍑当たり1500ベクレル)未満にするため、海水で100倍以上に薄めて放出している。それで完了するのに2051年まで30年近くかかる。

これに対して原子力規制委員会前委員長の更田豊志氏は共同通信のインタビューで「過剰に薄めて放出しても科学的には意味がない。海外の原子力規制当局からも『なぜ薄めるのか』とよく聞かれた」と語っている(9月20日配信)。

希釈を100倍から10倍にすれば、3年で放出が終わる。日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県)の放出管理目標値を適用すれば、何と約1カ月で全量放出できるという。むろん安全性に問題はない。

これは驚きである。30年近くと3年、いや1カ月とは……。あまりにもスピード感が違う。処理水をためた保管タンクのある場所は廃炉作業に欠かせない。タンクを処分すれば、それだけ廃炉に取り組め、福島の復興が早まる。とすれば、過剰希釈はとてつもない時間泥棒だ。

原発事故直後、年間追加被曝(ひばく)線量の過剰規制で故郷に帰還できない「原発難民」を少なからず生み出した。その轍(てつ)を踏まないためにいま一度科学的に物事を考えたい。

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