【上昇気流】(2023年9月29日)

漁火

夜行バスの車窓から日本海の漁火(いさりび)を何年かぶりで観(み)た。じっくりと眺めることはできなかったが、やはり何とも言えない不思議な情趣が漂う光景である。

漁火すなわち集魚灯を使った漁は、サンマやアジなどでも行われるが、代表はイカ釣り漁だ。日本海側には漁火を売り物にする観光地も少なくない。それは日本海でイカ漁が盛んだからである。

新潟県佐渡のホテルの露天風呂から漁火を見た時は、その語感からくるちょっと寂しいイメージが吹き飛んだ。暗い海のあちこちにナイター球場が出現したような不思議な光景だった。何よりその白色光の明るさに驚かされた。

漁火は衛星写真でも捉えられる。それを見ると海上に町が現れたようだ。いかに強力な光を発しているかが分かる。遠くにいるイカを引き付けるため、集魚灯も白熱灯からメタルハライドランプ(放電灯)へと進化し、大光量化していった。

消費電力も半端ではない。1隻当たり最大で180㌔㍗、家庭用40㍗の蛍光灯4500本分に相当する。近年は発電による燃料消費を抑えるため、LEDへの切り替えが進められている。

人工の光とはいえ、魚を集めるという点では、鵜(う)飼いのかがり火と基本は同じだ。水上に現れた美しい光の背景には、食料を求める人間の切実な生の要請がある。だからそこに詩情が生まれるのだろう。漁火は季語には入らないが、俳句でもよく詠まれる。「仲秋や漁火は月より遠くして」(山口誓子)

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