テレビで最近、こんなやりとりに接した。食事に関する「天下一品」という言葉。高齢世代の出演者は、天下一品を「まずい」の意味で考えている。その上で「若者はこんな言葉も知らないんだ!?」とコメントする。
すると、別の出演者(中年)が「そうした共通の理解はなくなったんです」と反論する。天下一品は皮肉なのだが、若者はそれが分からない。「言葉の裏」や「逆説」にも関心が薄いようだ。
「ほのめかす」などという芸当もあまりしない。言葉には微妙なニュアンスがあるのだが、それにも関心がないように見える。「少なくない」という言い方は「少ないわけではない」という意味なのだが、「多い」というのでもない。そこは感覚的に解釈するしかない。
テレビで女性タレントが食べ物についてコメントするとき、必ず冒頭で「うーん……」と言う。プロのタレントとして芸がなさ過ぎる。
「御遺族の方」という表現。「御遺族」と「方」という二つの敬語が短い言葉の中で使われている。「御遺族」で十分。言葉が過剰なのだ。言葉を発するのは原則無料だから、過剰でも構わないという発想なのだろう。
言葉は変化する。1000年前に書かれた『源氏物語』を原文でスラスラ読める人は少ない。ただ21世紀前半期の昨今、インターネットの普及も含め、驚異的な速度で言葉が変化していることは紛れもない。「古さ」と「新しさ」の違いがクッキリしてきているのは確かなようだ。