トップコラム【政界一喝】派閥と総裁選論理の限界

【政界一喝】派閥と総裁選論理の限界

インドで開かれたG20出席から帰国直後の13日、岸田文雄首相が内閣を改造した。同日の大手各紙の一面トップは一様に「上川外相」の見出し。林芳正氏が交代するという事前観測がなかったがゆえのニュース性、そして、歴代タイとなる5名の女性閣僚のなかでも、外相ポストへの上川陽子氏登用という話題性から、国内外にいち早く伝達された。

林氏の媚中外交は近づく台湾有事を念頭に、かねてから安全保障政策上、懸念する声が多かった。人脈を期待されど、今年3月のアステラス製薬社員拘束に対する訪中交渉でも釈放の成果は出せなかった。6月の国会会期末、多くの保守国民の懸念を度外視して岸田首相がLGBT理解増進法をゴリ推しした経緯から類推して、交代の決め手は米国の圧力だったのであろうか。「上川外相」を一様に発信させ、米政府含め一気に世界に周知させた首相の思惑が透けた。

今回の自民党主要四役と閣僚の人事は、派閥均衡と2024年秋の自民党総裁選を意識したものと特徴付けることができる。来年秋以降も「岸田派」が政権を握るとの思惑も反映する。「岸田派」と述べたが、岸田首相本人の再選を第一目標としながら、外相を交代になった派閥2位の林芳正氏にも次期総裁選準備への自由な環境を体よく与え、また女性初の総裁を誕生させるのだったら上川氏に、との布石を含めてである。

党内勢力で4位にとどまる派閥の生存本能から、自派閥を守りつつ、他派閥の次期総裁候補を牽制することにも余念がない。対象の筆頭が茂木敏充幹事長(茂木派)だ。故青木幹雄氏の遺志を背景に、同じ茂木派で故小渕恵三首相を父にもつ小渕優子氏を選挙対策委員長として党四役の一角に起用した。茂木氏は、結果として次期総裁選に向け自身の派閥をまとめづらくなった。

また、2年前に総裁選を戦った河野太郎デジタル相と高市早苗経済安保相、また最大派閥の安倍派から総裁選への意欲を隠さない西村康稔経産相は、閣僚として留任させ岸田首相を支える体制に組み入れた。

派閥や総裁選を強く意識した政権人事は、裏を返せば、国家と国民のための最大利益の追求という政権本来の目的を見えづらくする。否、全体としての国益ビジョンを前面に、それを国民に説明し共感させる布陣としながら、実は同時に派閥や総裁選論理をも満たしているという閣僚人事こそ、元来、首相に求められる能力だ。

だが、懸念こそ現実になっている。例えば、多数の女性の安全と人権を脅かしかねないとして自民党内をすら二分したLGBT理解増進法の強引な通過を担った新藤義孝氏を経済再生相、森屋宏氏を官房副長官に論功行賞人事したのだ。そうして政権が失った岩盤保守層や保守的な一般女性らは、受け皿たらんと内閣改造と同じ13日に出帆した百田尚樹氏率いる「日本保守党」にも注目している。同党はX(旧ツイッター)でも26万超(17日現在)のアカウントフォロワーを集め、自民離れを加速させている。

国益と国民の利益を先立たせることができない派閥均衡と総裁選狙いを国民は見透かしている。失った支持層もきちんと把握できていない。これでは、支持率も回復できず、改造内閣も長くは続くまい。次期解散総選挙では自民党が相当数の議席を減らすことは必至だ。(駿馬)

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