
陸の王者、107年ぶりに復活――。全国高校野球選手権大会で、慶応(神奈川)が仙台育英(宮城)を破り、1916(大正5)年の第2回大会以来2度目の優勝を果たした。「エンジョイ・ベースボール」での全国制覇は高校野球に大きな変化をもたらしそうだ。
慶応の選手たちの笑顔と、伸び伸びとしたプレーは見ていて気持ちが良かった。一方、厳しい場面では冷静で落ち着いたプレーも見せた。「エンジョイ」には、中々深いものがあり、メンタル面でも研究に値するものがありそうだ。
体を動かすことやゲームの面白さというスポーツ本来の楽しさが基本にあるだろう。しかし、より複雑で高度な楽しみがなければ、名だたる全国の強豪校相手に勝ち抜くことはできない。苦しい練習も楽しみに変えていったのは何か。
慶応義塾の塾長を務めた小泉信三は、自身テニスの選手で、スポーツの教育上の価値を深く認識し、「スポーツが若者に与える三つの宝」を挙げている。「練習は不可能を可能にするという体験を持つこと」「フェアプレー精神の体得」に「友をうること」。
中でも「練習ハ不可能ヲ可能ニス」は名言として知られている。練習で昨日できなかったことが今日できるようになる。その喜びを糧に、さらに不可能に挑戦する。この喜びを知ることは人生の大きな財産になる。
高校生の教育の一環として始まった部活動。慶応の優勝が原点回帰の切っ掛けになることを期待したい。