最近、言葉の重みというものを考えさせられることがある。そこで筆者の心に残っている、スポーツに関わる2人の言葉を取り上げたい。
1人は女子サッカーなでしこジャパンの元主将、澤穂希さんである。
開催中のサッカー女子W杯で、なでしこジャパンの躍動には引き寄せられるものがあった。試合を見ながら思い出したのが、澤さんが現役時代に語ったという言葉「苦しくなったら、私の背中を見て」だった。
なでしこジャパンは2011年のW杯で優勝し、日本中が歓喜に沸いたが、それまでは注目されることが少なかった。苦しい時期を知る澤さんは、08年の北京五輪の際にこの言葉でチームメートを鼓舞したという(江橋よしのり・馬見新拓郎編『なでしこジャパン壁をこえる奇跡の言葉128』二見書房)。
筆者には想像しかできないが、澤さんの主将としての日々の積み重ねが他の選手たち、そして次世代の選手たちに大きな影響を与えたのだと思う。
もう一つは、1924年のパリオリンピックの陸上競技で金メダルを取ったエリック・リデルの言葉である。リデルは映画「炎のランナー」のモデルになった。その後、キリスト教の宣教師として中国に渡り、第2次世界大戦中には日本軍収容所に入れられる。そこで苦しい収容所生活を送って日本への憎しみを募らせていた若者たちに、こう語ったという。
「人を憎むとき、きみたちは自分中心の人間になる。でも祈るとき、きみたちは神中心の人間になる。神が愛する人を憎むことはできない。祈りはきみたちの姿勢をかえる」。この言葉を聞き、リデルからシューズを贈られた若者は、その後、日本で長年宣教活動に従事している(OIKOSBibleLearning「真の栄光をめざしたアスリート」)。
次の世代に何を伝えるかという意味でも、筆者には心に深く残る言葉だった。
(誠)