【上昇気流】(2023年8月12日)

地方紙の投書欄にこんな一文を見つけた。「母が亡くなり二十数年、親が子を待ち続けているだろうと思うと、お盆の時期が待ち遠しい」。78歳男性のもので、帰郷し墓参りする楽しみを綴(つづ)っておられた。

「畑のあぜ道を歩き、小高い丘に立つ墓に着く。風光明媚(めいび)な山々に囲まれて母は眠る。花と線香を手向け、親不孝の数々をわび、あの世から見守ってくれていることに感謝」。日本の原風景が浮かんでくる。お盆では多くの人が同様の思いで先祖と出会うことだろう。

千葉市にある淑徳大学の郷堀ヨゼフ教授はチェコで生まれ育った。当地では「今」を生きることに重きを置き、墓を持たず葬儀も行わない家族が増え、死者の写真に話し掛けている人は精神病だと思われてしまう。そんな姿に疑問を抱いてきた。

人間関係も人生そのものも、一人の誕生をもって始まり一人の死をもって終わってしまう短編小説のようになり、受け継がれることもなければ、二度と物語られることもない。それがかえって不安の元になり、死を受け入れる妨げになっているのではないか。ヨゼフさんは来日後、新潟県の村落でフィールドワークを行った。日々、欠かさず仏壇にお供えをし、手を合わせる。死者は祖霊となり氏神となる。そこに異界との関わりを見いだした。

『生者と死者を結ぶネットワーク』(上越教育大学出版会)はその報告書である。お盆になると、書棚から取り出し再読したくなる一冊である。

spot_img
Google Translate »