【上昇気流】(2023年8月5日)

真っ白い入道雲がもくもくと立ち上がっていくと、やがて周囲が薄暗くなり、すさまじい勢いのにわか雨に見舞われた。急雨と言った方が似つかわしい。福島県の西白河郡西郷村から南会津郡下郷町に至る甲子トンネルを抜けた道の駅でのことだ。

ひと休みしていると雨は上がり、険しい山並みが姿を現した。那須五岳の最高峰、三本槍岳である。その雄姿を望み見ていると不思議な思いに駆られた。この界隈(かいわい)に降った雨水はいったい、どこに流れていくのだろう。ここは日本列島の中央分水嶺で水の落ちた山稜線の位置によって水系が変わる。

三本槍岳なら阿賀川の源流をなし、会津盆地を横切って新潟県に入り、阿賀野川と名を変え日本海に注ぐ。朝日岳や茶臼岳の東側なら阿武隈川となり、北上して仙台湾に至る。南側なら関東平野を下る那珂川となって太平洋の一滴となる。

分水嶺は転じて、物事がどうなっていくかが決まる分かれ目の例えで使われる。人生の分水嶺、国家の分水嶺といった具合に。が、水ならば高きから低きに、物理法則によって必然的に方向が決まるが、人と関わることは「意思」によって決めねばならない。

令和5年版防衛白書は「戦後最大の試練の時」と、わが国が分水嶺に立たされていることを示唆する。この危機は、待てば陽光が戻る通り雨ではない。国民の意思によって克服しなければならない。

那須五岳がそう語っているように思えた、盛夏の旅路の出来事である。

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