大雨の日、1人暮らしの妻(筆者は単身赴任)が買い物先で、ショッピングセンターの濡(ぬ)れた床で滑って、右足の膝をしたたか打った。痛みをこらえながら、車のアクセル踏みつつ整形外科にたどり着く。膝のお皿にひびが入っていることが分かり、右足をギプスで固定する羽目に。医者の見立てでは、外すのに4週間かかるという。
困ったぞ。これでは車を運転して家に帰れない。そこで思い浮かんだ。昨年、愛車を購入したディーラーの顔。早速、電話する。営業時間が終わる夕方6時ごろだったこともあって、間もなく車に2人乗って駆け付けてくれた。1人が妻の車を運転し、家に送り届けてくれた。
都会ではこうはいかないだろう。田舎では遠くの夫より近所の車屋なのだ。松葉杖(づえ)に頼る妻を、買い物など手助けしてくれる知人もいる。だが、いくら人情厚い人たちが周囲にいるとはいえ、他人様(ひとさま)には頼めないこともある。何より田舎では車がないと生きていけない。そこで、筆者がしばらく帰省することに。
すると、“アッシー君”よろしく、スーパーに連れて行け、病院に送ってくれ、と妻の命令が待っていた。朝夕には、庭の草むしりで忙しい。結婚して初めての経験もした。「靴下、はかせて」と小さな足が筆者に迫ってきた。膝が曲がらないから仕方ないのだという。それでも「下着も」とは言わない。どうやって足を通しているのか分からないが、60歳過ぎても恥じらいはあるし、親しき仲にも礼儀あり、だ。
厚労省の国民生活基礎調査(2022年)によると、同居家族らによる介護のうち、介護を受ける人、世話する人が共に65歳以上の「老老介護」は63・5%と過去最高。私たち夫婦は同じ年だから、いずれどちらかが先に要支援・介護になる。そのコツは、社会のサポートをうまく活用することとか。ギプスは予想より早く外すことができて、老老介護のいい実施訓練となった。(清)