【上昇気流】(2023年8月1日)

パリ名物、セーヌ川岸に並ぶ古本屋。フランス語の読めない観光客でも、ポスター、古切手などを求める人は少なくないだろう。緑色のボックス型の店舗が、文化都市の雰囲気を漂わせている。

小紙の安倍雅信特派員によると、この川沿いの書店が、来年のパリ五輪の開催で市から立ち退きを迫られている。五輪の開会式はセーヌ川で行われる予定で、観客に必要なスペースをつくるためだ。これに対し、書店主たちは予想外の抵抗を示しているという。

フランス文学者の河盛好蔵が「河岸の古本屋」という昭和44年発表の随筆で、セーヌ川沿いの古本屋の歴史を詳しく紹介している。それを読むと、始まりは少なくとも17世紀に遡り、歴史の波に翻弄(ほんろう)されてきたことが分かる。

フランス革命後の混乱期がその黄金期で、貴族たちの蔵書が大量に出回り、それを英国人に売って大儲(もう)けした店主がいた。ナポレオンもここで入手した本から多くを学んだ。第2次大戦のドイツ軍による占領時、英語の本などは販売が禁止されたが、それを求めるドイツ軍兵士に密(ひそ)かに売られていた。

そんなエピソードを持つ川岸の古本屋は、しばしば当局による規制と戦わざるを得なかった。その度に本好きの文化人や学生らから助けられてきた。

パリ市が求めているのは一時立ち退きで、その間の損失は補填(ほてん)する考えらしい。店主たちの強い抵抗の背景には、パリ名物のプライドを傷つけられたことがあるのかもしれない。

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