トップコラム【上昇気流】(2023年7月30日)

【上昇気流】(2023年7月30日)

第169回芥川賞・直木賞がこのほど発表された。芥川賞に市川沙央さんの「ハンチバック」、直木賞には垣根涼介さんの「極楽征夷大将軍」と永井紗耶子さんの「木挽町のあだ討ち」の2作品が選ばれた。

芥川賞・直木賞の歴史の中には、さまざまな出来事があった。中でも、芥川賞の受賞を辞退したケースは特筆される。賞の創設に関わり、戦後は選考委員も務めた作家の永井龍男の『回想の芥川・直木賞』(文春文庫)には、そのあたりの事情が記されている。

昭和15年の第11回芥川賞で、選ばれた高木卓が辞退した件だ。高木の内心は分からないが、これに対して「恥をかかされた」と賞創設者の菊池寛が激怒した。

今では受賞を辞退するということはほとんどない。これが何かのひも付きならば、思想信条から辞退するということもあり得るだろう。芥川賞は純然たる文学の振興を目的とした賞なので、こうした辞退はそれだけ目立つ。。

菊池の焦燥感に満ちた反論は別としても、選考委員は冷静に作品の質を考査して辞退を是としている意見が多い。実は高木を推していたのは菊池自身で、歴史小説というジャンルの向上を願って、高木の前作を含めた授賞を考えていたらしい。

菊池のジャーナリズム的な経営者感覚で賞を創設したという見方もあるが、作家の地位向上や文壇の発展を願った面もあることは間違いない。その菊池も、現在の受賞作決定前後の狂騒は予想外だったかもしれない。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »