東京の歌舞伎座で「菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ) 忠臣蔵後日譚」を観(み)た。昭和59年市川猿翁さんが3代目猿之助の時に、163年ぶりに復活させた狂言だ。母親に対する自殺幇助(ほうじょ)容疑で逮捕された市川猿之助容疑者の代役で市川中車さんが主役を務めた。
試練の中にある歌舞伎界だが、歌舞伎座の華やいだ雰囲気はいつもと変わらない。コアなファンたちがしっかりと支えている。
大詰めでは、中車さんが大凧に宙乗りになって消え、再び大凧(おおだこ)に乗って舞台に戻ってくるという両宙乗りを演じた。大屋根の上で瓦が舞い飛ぶなどスぺクタクルな舞台だ。
四世鶴屋南北の作で文政4年に初演されたこの狂言、「忠臣蔵後日譚」とあるように「仮名手本忠臣蔵」のパロディーとなっている。赤穂浪士切腹から1年後の甘縄禅覚寺(高輪泉岳寺)の場面から始まり、忠臣蔵では悪役の斧定九郎が、塩谷家(浅野家)の再興を図り奮闘するというものだ。
パロディーだから何度も笑いが起きる場面があり、楽しめる。忠臣蔵を観続けてきた江戸っ子たちには、新鮮だったのだろう。ただ、忠臣蔵のような深い感動はない。
安倍晋三元首相の銃撃事件から1年。「安倍氏の遺志を引き継ぐ」と岸田文雄首相そして自民党幹部たちは語った。しかしその言葉とは裏腹に、似て非なる政治を行っているように見える。結局、安倍政治のパロディーにすぎないのではないかという疑いが拭えない。これが杞憂(きゆう)であることを祈りたい。