トップコラム【上昇気流】(2023年6月28日)

【上昇気流】(2023年6月28日)

映画の撮影中の話。その日の撮影が終わった直後、監督が「もう一度撮り直したい」と言った。時代劇だったので、カツラを外した俳優や衣装を脱いでしまった俳優も多い。で、主役兼座長の若手人気俳優が、監督の申し入れを断った。監督はそれを了承した。

今月朝のテレビ番組で、当の主役兼座長がごく最近起こったそんなエピソードを語っていた。無論監督も、それなりの根拠があって撮り直しを提案したのだろう。が、俳優らの意見によって提案は撤回された。

「昔だったらどうだろうか?」と考えた。監督の提案は受け入れられたのではないかとも思う。監督は撮影現場では最終責任者だ。映画では「監督が作者」と見なされるのは今も昔も変わりがない。

「黒澤明(1998年没)の時代だったら……」とも考える。ここ10年ぐらいの間に、状況が大きく変わった。キーワードは「パワハラ」。芸術のためなら大抵のことは許される芸術至上主義が当たり前の時代。それが長らく続いてきた。

最近は最終責任者が監督ではなく、パワハラに対する問題意識ということになったのだろう。映画であれテレビドラマであれ、撮影現場は多様だろうが、パワハラという単語を全く無視して撮影が行われることは今どきあり得ないことだけは確かだ。

「時代の変化」と言ってしまえばその通り。芸術至上主義が当然だった時代があったのと同じように、パワハラへの対応が重くのしかかる時代となった。

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