トップコラム【上昇気流】 (2023年6月20日)

【上昇気流】 (2023年6月20日)

縄文時代に作られた土偶は、世界的にもユニークな文化である。ハート形やミミズク形などの顔を持ち、それがカワイイと夢中になる「土偶女子」が全国各地の博物館を訪ねているという。

宇宙人を象(かたど)ったのではないかとも言われる。形は多様だが、基本的には女性性を表現したものであるというのは、専門家のほぼ一致した見方である。胸や膨らんだお腹(なか)、女性器を表したものもある。

さまざまな土偶を見ると、ほとんどがお腹の真ん中から胸にかけて正中線(妊娠線)がはっきりと形作られている。妊娠線がなぜできるか、今は医学的に簡単に説明できるが、縄文人は出産との関わりで神秘を感じたのではないか。

こういったことから、土偶には安産の祈願や出産に象徴される大地の恵み、豊穣への祈りが込められているとの見方が出てくる。しかし人文科学の世界では、最近の一種流行ともなっているジェンダー的な視点を用いると、素直に受け入れ難いとする意見もあるようだ。

考古学者の山田康弘東京都立大教授は、望月昭秀編『土偶を読むを読む』(文学通信)で、女性性に期待されたのは、男性には不可能な生命を生み出すことだろうとしながら「こういう発想こそがジェンダーバイアスだと言われちゃうと苦しいですがね」と吐露している。

教授の言う「苦しさ」は、自説が妥当かどうかということよりも、学界の空気によるものではないかと思われる。変な世の中になってきたものだ。

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