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【心をつむぐ】奇跡を信じたヘブル人

ヘブライ語英語対照 旧約聖書
ヘブライ語英語対照 旧約聖書

旧約聖書学者の浅野順一(1899~1981年)が、若い日に、旧約聖書に興味を持ったのは旧東京商大の学生だった時、三浦新七教授の「商業史」の講義を聴いたことだったという。

実際の内容はヨーロッパ文化史で、その授業は学生の間で一番人気を呼んでおり、浅野もまたこの講義を聴くのが楽しみだったそうだ。そこで教えられたのは、旧約聖書がヨーロッパと世界の文化の形成に大きな原動力になっていたということ。卒業後、聖書研究を決意し、生涯を懸けて学ぶことになる。

浅野の著書『予言者の研究』(講談社)は、エリヤ、アモス、ホセア、イザヤ、ミカ、エレミヤについての研究書だが、「イスラエルの予言者を研究することはやさしい。しかし予言者の如く生きることはむずかしい」と語る。

彼は学者の仕事と並行し、牧師の仕事にも情熱を注いだ。東京・渋谷区にある美竹教会を開拓したのだ。キリスト教に批判的な戦前の日本の社会で、教会に生命を与え、信徒数を拡大していくことは困難だったと思う。

この著書で興味深いのは「奇跡」についての扱いだ。文献批判的、歴史批判的研究史を紹介しつつ、その致命的欠陥を「奇跡」を認めないこと、と指摘する。ヘブル人にとって奇跡を信じることは当然のことで、「奇跡観念のない宗教は宗教に値しないのではないか」と語る。教会の開拓は、浅野には「奇跡」の意味を持っていたのであろう。 

(岳)

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