滋賀県大津市の園城寺で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された、平安時代の僧円珍が唐から持ち帰った通行許可書などの史料5点が、特別展示されている(7月2日まで)
登録された史料群は「智証大師円珍関係文書典籍―日本・中国の文化交流史―」で、東京国立博物館と園城寺が所蔵。現代のパスポートの起源の一つ、通行許可書「過所」の原本は唐の交通制度を知る上で貴重だ
園城寺は過去十数回、焼き打ちなどで存続の危機に遭ってきた。園城寺の福家俊彦長吏は、記者会見で「1100年もの間、困難を乗り越えて今に伝わっているのは奇跡的」と喜びを語った
のちに比叡山座主となる円珍が唐に渡ったのは853年、40歳の時だった。先に唐に渡ったことのある最澄も円仁も、旅では非常な苦労を強いられた。円仁の場合、天台山を目指したが許可を得られなかったため、五台山に目標を変える
しかし、過所を得るためには命懸けの交渉が必要だった。2人の体験から円珍は周到な用意をする。2人の入唐時の記録を写して持参したのだ。過所は唐時代の書式例を完全な形で伝える、世界で唯一の一次史料
円珍は天台山、長安、洛陽と旅し、帰国後に「在唐巡礼記五巻」をまとめた。が、兵火で現存しない。円珍ゆかりの国宝として有名なのが、園城寺の「黄不動尊」。25歳の修業中に現れ、「私があなたを守る」と約束した不動明王だ。