大相撲夏場所は、4場所休場明けの横綱照ノ富士が8度目の優勝を果たして締めくくった。大関取りを目指す関脇霧馬山、2年ぶりに幕内に復帰した朝乃山が優勝争いに絡み、4関脇も全員勝ち越すなど充実した場所だった。
そんな中でも、照ノ富士の強さが一頭地を抜いていた。横綱だから当然とも言えるが、「心技体」が充実し、とりわけ精神的な強さが際立った。
場所の間、終始厳しい表情を見せていたのが印象的だった。14日目に霧馬山を破って優勝を決めた後のインタビューでも「毎日が戦いですから」と変わらなかった。千秋楽の表彰式で賜杯を手にした後の優勝インタビューの時、やっと表情が緩んだ。
照ノ富士の均整の取れた大きな体は、東大寺南大門の金剛力士像を思わせる。しかしその表情は、どちらかというと同じ東大寺でも戒壇院の四天王像の一つ、広目天像に似ている。仏法の守護神の持つ厳しい表情は、ただ闘志をむき出しにして相手を威嚇するようなものではない。もっと内面的なものがある。
照ノ富士が持ち続けた表情の厳しさにも、それに通じるものが感じられた。相手以上に自分自身に向けられた厳しさである。
横綱審議委員会の山内昌之委員長は「全ての力士の鑑となり、模範となった」と高く評価した。その横綱に来場所以降、大関昇進が確実となった霧馬山らの上位陣がどう挑んでいくか。ぶつかる壁の高さが、力士の成長の度合いを高めることを期待したい。