中国など賃金の安い国に生産拠点が移動し、産業の空洞化が進んだのは、フランスも同じだ。
例えば、仏西部ブルターニュ地方の東の端、フジェールでは20世紀初頭に靴の生産量の11%を占め、40近くの工場で約1万2000人が働いていたが、今では5社で1000人しか雇用されていない。同様の現象は全国各地に広がる。
そんな中、中国に生産拠点を移していたフランスのアパレル産業で、メイド・イン・フランスのブランド力を再評価する動きが加速、特に羊毛産業の復興が注目されている。中でも南部アルル近郊で育つメリノ種の羊から取れる高品質のウールの再興が、まだ小さなレベルだが注目されている。
今では日本のキャンピングブームで人気を博すメリノウールは、暖かいだけでなく、蒸れないことで発汗調整にすぐれ、柔らかく、価格は高いが人気上昇中だ。メリノウールはオーストラリア、ニュージーランド、フランスが主な生産国で、特にフランス産メリノはフカフカなことで知られる。
アルルに存在するメリノウールの織物工場は1軒だけで、産業そのものが絶滅寸前。1950年代に合成繊維の登場によりフランス市場のウール市場は崩壊し、紡績工場はフランスからほぼ姿を消した。
ところが高品質の自然素材ということで、アパレル産業のベンチャー企業が畜産農家と共同開発したブランドを立ち上げ、その試みが注目されている。
(A)