スーパーで、初ガツオのサクが比較的安い値段で出回っている。昨年は記録的な不漁だったが、今年は各地で豊漁が続いているようだ。黒潮に乗って太平洋沿岸を北上してくるカツオ、千葉県の勝浦港では4月から今月19日までの水揚げ量が約2800㌧で、前年同期の5割増だ。
「女房を質に入れてでも」と言われるくらい、江戸っ子の初ガツオ好きは有名だ。東京・歌舞伎座で上演中の河竹黙阿弥作「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」。通称「髪結新三(かみゆいしんざ)」で知られ、今回は尾上菊之助さんが新三役のこの芝居でも、カツオがストーリー展開上のポイントとなっている。
材木問屋、白子屋の娘お熊を誘拐し、身代金がたんまり入ると思った小悪党の新三。天秤(てんびん)棒を担いでやって来た魚屋からカツオを買う。魚屋はその場で、見事にカツオを捌(さば)いてみせる。
そこへ大家の長兵衛が現れ、30両でお熊を返すよう新三と話を付ける。ところが、長兵衛は15両しか渡さない。新三が文句を言うと「カツオは半分貰(もら)ったぜ」と言うばかり。
カツオの半分は身代金の半分という意味だった。厭(いや)なら前科者のおまえを長屋に置いておくわけにはいかないと凄(すご)む長兵衛。しぶしぶ承知する新三。季節の風物が見事に織り込まれた黙阿弥の名作だ。
気候変動が激しさを増し、昔のような季節感が乏しくなってきたこのごろ。日本の四季が奏でる情趣は、歌舞伎の舞台や俳句でしか味わえなくなるのではないか。そんな危惧が頭をかすめる。