トップコラム【上昇気流】(2023年5月18日)

【上昇気流】(2023年5月18日)

聖母マリア像

「聖五月」という言葉がある。俳句の季語として使われているが、一昔前の歳時記には表記されていないものがあり、現代になって盛んに使われるようになったようだ。西欧で5月を「マリアの月」と呼んできたのが由来。

教会では聖母像をシラカバやモミなどの若枝、バラの花などで飾って祝い、マリアの讃歌(さんか)を歌って豊穣を祈る。そして、この月の最後を飾るのが聖霊降臨祭だ。聖霊が下りてきて、キリスト教徒らが伝道を開始した日である。

キリスト教暦で今年は5月28日。だが植田重雄著『ヨーロッパの神と祭』(早稲田大学出版部)によると、これは夏迎えの祭りとも結び付いていて、一連の行事はキリスト教以前のゲルマン、ケルトからのものに起源がある。

古代ゲルマンの女神フライアは5月、「森の花嫁」や「森のバラ」となって顕現するという伝承があり、「天の花嫁」の訪れを祝う行事が行われる。万象が喜びに包まれる季節、新しい生命と美を携えて来る「訪問神」だ。

季節の訪れは日本でも同じで、それを喜びたい気持ちがこの季語の人気となったのだろう。「きき澄ます森の水音聖五月」(松澤白楊子)。清く澄んだ小川の水音は、新緑の森の中で心惹(ひ)かれるものがある。

西欧でも同じで、各地に残る「若返りの泉」では、聖霊降臨祭にその水を飲むと幸福になると言われ、それが習俗になっている。信仰が生きて根付いていくには、自然や習俗との結び付きが不可欠だったのだ。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »