【上昇気流】(2023年5月13日)

ドイツの哲学者イマヌエル・カントには、墓碑にも刻まれている有名な言葉がある。「見れば見るほど美しく、考えれば考えるほど尊いものが二つある。それは星の輝く大空と、胸の内なる道徳律である」。西洋哲学史上、屈指の名著とされる『純粋理性批判』(1787年)にある。

大空、それも星が輝くとは何とロマンチックか。胸の内なる道徳律とは、言ってみれば良心だろうか。カントはその二つが見れば見るほど考えれば考えるほど尊いと、どこで感じ、そう確信したのだろうか。

故郷は東プロイセンのケーニヒスベルク(現在はロシア領カリーニングラード)。人生の大半をここで過ごした。

父は馬具を作る実直な革細工職人で、敬虔(けいけん)な母は少年カントをしばしば野原に誘い、昼は草木や花、蝶(ちょう)や鳥、夜は星の輝く空を共に仰ぎ見た。その母は13歳の時に亡くなった。

玉川学園の創始者で教育学者の小原國芳は、カントの言葉をこう考える。「大事な大事な、そして詞のように美しい言葉ですが、こういう言葉を本に書くとき、カントは、幼いころのことを、母のことを、心のどこかで思いだしていなかったでしょうか」(『偉人の母』玉川大学出版部)。

「父は勤勉と真面目。殊にあらゆる虚言を避けることを求め、母はさらに神聖さを求めた」とカントは語っている。貧しくとも楽しい家庭であった。母の名はアンナ・レギナ・ロイテル。母の日を前に彼女を思い浮かべた。

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