トップコラム【上昇気流】(2023年5月11日)

【上昇気流】(2023年5月11日)

山の風景は位置によって違って見える。東の岩場から見上げるのと、西の灌木(かんぼく)地帯からとでは、同じ山とは思えないほど異なった様相だ。山道をたどることは新たな発見の連続でもある。

世界の見方についても、同じことが言えるだろう。フランスの家族人類学者エマニュエル・トッドさんは、18世紀の歴史研究に際して、個人的な立場からは距離を取り、客観的に認識しようとしてきたという。

賛否の形で関与するわけにはいかなかった。これは現代でも同じ。佐藤優さんや片山杜秀さんらとの共著『トッド人類史入門』(文藝春秋)でウクライナ問題を取り上げ、西側の報道とは違った見方を示す。

佐藤さんは、ロシアのプーチン大統領が2022年9月30日に行った西側批判の演説を引用する。「彼らは今、道徳、宗教、家庭を徹底的に否定する方向に進んでいます。(略)私たちは、小学校から学校で、(略)男性と女性以外に性別があることを教え、性転換を受けさせるのか?」。

トッドさんは「人類は大転換期を迎えていて、英米主導の近現代が、深刻な危機にさらされている」と言い、その個人主義が「限界を超えてしまったと認識している」と語る。

その誤りとは「集団」なしに「個人」が存在するという考えに至ったこと。個人の行動を規範付ける枠組みの家族や宗教に、重要な役割があったことを再考させる。ロシアの侵略は許されないが、こうした論考を無視できないことも確かだ。

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