【上昇気流】(2023年5月3日)

牧野富太郎像

著名な植物学者、牧野富太郎(1862~1957)をモデルにしたNHKの連続テレビ小説「らんまん」を見ていると、「家」というものが大きな力を持っていた時代があったと改めて思う。特に家業の場合、長男は後を継ぐのが普通だった。向き不向きは人間に付きものだが、それと関係なく世襲することが昔は多かった。

21世紀の今でもこうした習慣がなくなったわけではない。なくした方がいいとは思わないが、家業の継承を巡るさまざまな悲喜劇は今もあるだろう。

牧野の家は酒造家だった。植物学者に限らず、芸術家や画家、音楽家、文学者などになりたいと思っている人物が、たまたま長男だったケースは特に厳しい。東京の大学に進学したいと思っても、家が豊かでなければ難しい。家との相克が収まって大学に進んでも、学費は家に依存していることが多い。

成功するのは一握り。「作家になりたい」と思う人間は今では少なくなったが、それでも成功への道が遠いことには変わりはない。

家を捨て、親と闘った上で、学資だけは調達できても、芸術には「才能」というどうにもならない壁がある。

東京で窮死する場合もあろうし、「家業を捨てて努力したが、才能がないことが分かった。家業を継げばよかった」と後悔する場面もありそうだ。作家でなくても、教員になるとか、会社員で成功するとか、選択の幅はある。牧野の場合が稀有(けう)な成功例だったことは確かだ。

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