トップコラム妻の背中流しても流せぬ悔悟

妻の背中流しても流せぬ悔悟

腰痛の女性

腰部脊椎管狭窄(きょうさく)症で、妻が手術を受けることになったことは先月4日付のこの欄で書いた。今回はその後の経過報告だ。

同日の手術は無事「成功」。手術前、妻が若い医者から説明を受けて不安を募らせた「合併症」(神経損傷、麻痺(まひ)など)の症状は今のところ出ていない。12日間のリハビリ後、思ったよりも早く退院することができた。とはいえ、すぐに通常生活に戻ることはできないので、単身赴任の筆者が1週間余り〝介護帰省〟することにした。

例年より気温が高く、日中は汗ばむ陽気が続く。しかし、風呂を禁じられた妻はシャワーで我慢を強いられたが、背中の傷はぬらせない。そこで〝三助〟の登場。傷痕に注意しながら、背中を流したが、妻は「ああ、極楽!」の歓喜の声。

一方、三助の方は5㌢余りのミミズを背中に這わせたような傷痕を目の前に、体にメスを入れることの大変さを思う。それだけではない。「これまで妻の背中を流してやったことはあったかな」と、長年単身赴任を続けて苦労を強いてきたことへの悔悟の念に駆られる。無意識に垢擦りの手に力が入るが、過去は流せない。

先月末、退院後初めての検査に、車で妻を病院に連れて行った。「手術は若い先生なのよ」と、妻が不安を漏らした医者の顔を見てやろうと思い、一緒に診察室に入ることにした。

だが、筆者の目に留まったのは、医者の顔より、その頭上に垂れ下がったレントゲン写真。一つの背骨の中央が大きく削り取られている。手術の大変さが視覚的に伝わってきた。「こんなに削って大丈夫?」というのが素人目の率直な感想だが、医者は「これでも骨は残っている方ですよ」と言う。

そんなことどうでもいいとばかりに、妻は「きょうからお風呂入れますか」と尋ねると、医者は「いいですよ」。「若い」と妻は不安がっていたが、案外、名医だったのかもしれない。

(清)

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