
北海道網走市の能取湖で、養殖ホタテの稚貝およそ1億8000万粒、生産計画量の9割が死んでいるのが見つかった。寒い海を好むホタテは北海道と東北地方で養殖されている。能取湖ではこれまでさしたる不調はなく、当事者の驚きは尋常でなかろう。
ホタテの養殖は幼生を稚貝に成長させ、それをいかだにつるし水深を調節するなど、非常に手がかかる。それらの過程で何らかのストレスがかかったことが原因の一つと考えられる。能取湖の水質調査がぜひ必要だ。
二十数年前、愛知県の三河湾を視察したことがある。この時はまだ水質の汚染、汚濁がひどく、カキの養殖は駄目で、湾内のある小島での実情を見てがっかりした。しかしその後、地元と行政が営々と水質改善に努め、カキ養殖業は蘇(よみがえ)った。養殖の鍵は水質だと改めて感じさせる。
ところが近年、養殖漁場では過密養殖や餌料の投与などによって、過度の硫化物や有機物が見られ、全国的に環境が悪化している。能取湖の今回の失敗がその延長線上にないことを願うばかりだ。
養殖の方法で、5年ほど前から盛んに言われる「アクアポニックス」は、従来の水産養殖と作物の水耕栽培を組み合わせたシステム。巻き貝、魚、エビなどの飼育と水耕栽培とで共生環境の形成が可能だが、普及はまだ。
日本列島の漁場の拡大も限度を迎えており、この種の養殖技術を駆使したい。養殖産業が持続可能な漁業の鍵を握っている。





