【上昇気流】(2023年4月7日)

安倍晋三元首相が亡くなる寸前まで読んでいた岡義武著『山県有朋―明治日本の象徴―』(岩波文庫)を読んだ。国葬の弔辞で菅義偉前首相が取り上げ話題となった本である。明治大正の日本の政治史の中で、山県の人と行動を達意の文章で描いている。

山県は長州の奇兵隊を率いた維新の元勲であり、日本陸軍の基礎を築いた「陸軍の大御所」。代表的な藩閥政治家で、戦前の軍国主義の元祖のようなイメージがある。

しかし幕末、欧米列強の力に怯(おび)えながら独立を保つために奔走した経験があるだけに、外交には極めて慎重で用意周到だった。現実主義的で英米との協調を基軸に据えていた。本書では「日米戦争は山県公さえ生きて居れば、起こらないよ」と言った原敬の言葉を紹介している。

大正11年に83歳で亡くなった山県が、晩年に一番心を悩ませていたのが社会主義、共産主義思想の蔓延(まんえん)だった。労働運動の台頭にも神経を尖(とが)らせ、当時議論されだした8時間労働制にも否定的だった。その理由が面白い。

「自分も庭作りに植木屋を使っているが、彼らは午前七時半頃来てゆるゆる一服して三、四十分を費し、少し働くと食事休みとて一時間ほど休み、その次はオヤツなどといって茶をのみ雑談し、夏などは昼寝をするものもないではない」。時間制で束縛できない職人たちの仕事の実情から見てみるべきだと言うのだ。

こんな記述を、働き方改革を主導した安倍さんはどう思って読んだだろう。

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