大手企業の賃上げ発表が続き頼もしい。日本の雇用の7割を占める中小企業に、大手の「後押し」の効果はあるか。期待したいところだが、不安な要素も少なくない。中小の経営者の高齢化、後継者不足の問題だ。
数年前、東京・大田区で長年、メッキ工場を経営してきた80代の男性に話を聞いたが、半世紀前と比べメッキ関連の中小企業は20分の1ほどに減り約100社ほど、そのうち機械が稼働しているのは約40社だという。合併もあるが、社長の高齢化に伴い廃業するケースが目立って多い。
全国で2018年までの5年間を見ると、60代の社長は35・8%から30・3%に減り、逆に70代は21・6%から28・1%に増えた。それに伴って後継者不在が深刻で、社長年齢が60代で約半数、70代で約4割は未定だ(20年版中小企業白書)。
中小企業の運営は、経営者個人と少数の直属的な首脳幹部による素早い意思決定、実行力が魅力であり強み。しかし高齢化でむしろ惰性、現状維持型が増え、後に続く者が出てこないというパターンだ。
平成初期に急激な円高で輸出が伸びず、中小企業が生産拠点を海外に移転せざるを得ないという事態に陥ったことがあった。ところが今日、円安でも輸出が伸びず、新興国の生産力に押されて張り合えないということも起きている。
「貴重な経営資源を散逸させないためには、迅速に次世代の意欲ある経営者に事業を引き継ぐ取組が重要」(同)とは言わずもがなだ。