【上昇気流】(2023年3月9日)



渡良瀬遊水地で4日、約1500ヘクタールの広大なヨシ原に火を放つ「ヨシ焼き」が行われた

「野は枯れて遊水囲む無辺かな」。埼玉県在住の俳人、松永浮堂さんが地元の渡良瀬遊水地の広大さを詠んだ句だ。収めた句集も『遊水』。ここは茨城、栃木、群馬、埼玉の4県にまたがる湿地帯だ。

春を迎え、約1500㌶のヨシ原に火を放つ「ヨシ焼き」が行われた(小紙3月6日付)。多様な動植物が生息する湿原の環境保全や、病害虫の駆除のために実施されている風物詩。

各所で火が放たれ、燃えていくと、土手の上に立ったカメラマンたちがシャッターを切る。風景写真の左側は焼けて黒く、ヨシとの境目で炎の手が激しく上がっている。ヨシは背が高いので火の勢いも強い。

野焼きと言い、俳句では他に、山焼き、芝焼き、畔(あぜ)焼きの季語も使われる。近年は環境問題から控える所が多くなったが、古代から行われてきた行事だ。古事記の倭建命の神話にも登場する。

野焼きを撮影して多くのファンを魅了したのは、写真家・川内倫子さんのシリーズ《あめつち》。東京都写真美術館で2012年、「照度あめつち影を見る」という題名の個展で紹介された。

照度とは、独自の光の表現を象徴した言葉で、舞台は九州の阿蘇だ。お椀(わん)の形をした丘が登場し、左半分が黒く、右半分は枯れ草のまま。その境目で線となった火が、ゆっくり移動していく。川内さんは「自分が惑星の上に立っているような感覚」を味わい、「この世の始原的なもの」を考える。火が古代の幻想を誘うのだ。

spot_img
Google Translate »