トップコラム【上昇気流】(2023年3月5日)

【上昇気流】(2023年3月5日)

卒業証書を持つ女子学生

ゴミ置き場に、大きなゴミ袋が多数置かれている日がある。人事異動でこれまで住んでいた場所から新しい所へ向かう近所の住人が、要らなくなったものを処理するためだ。

今の時期は、出会いと別れの卒業式や入学式の季節でもある。なぜ出会いと別れなのか。時系列的には、別れと出会いではないのか。卒業によって同級生と別れてから新しい出会いの入学があるからだ。

しかし、よく考えれば、最初に出会いという前提があってこそ別れがある。その意味では、出会いと別れという表現は正しい。出会いには期待と不安が付きまとい、別れには悲しみがある。印象が強いのは別れの時である。

別れで思い出すのは、作家の井伏鱒二の「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」という言葉。唐時代の于武陵の詩「勧酒」を訳した一節だ。唐時代には、こうした知人や友人との別れを詠んだ詩が少なくない。

自然派の詩人である王維には「元二の安西に使いするを送る」がある。やはり、別れの杯を交わしながら「西の方陽関を出づれば故人無からん」と友の辺境への赴任を憂えている。それほど厳しい任務であったのだろう。

王翰が詠んだ漢詩「涼州詞」にも友人との別れを「古来征戦幾人か回る」と惜しんでいる。辺境での紛争がいつ起こるか分からない唐時代と現代の別れは違う。だが、人生における分岐点であることは間違いない。「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」と口ずさみたい気分になる。

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